今日のルートはかなりの悪路が予想されており、昨日の2トントラックをお願いしておきました。なんせ、舗装道路がほとんどないような泥濘を走ります。昨日まで雨だったのでなおさら。
今日は観光バスの定番コースである東側のルートをたどり、最終的に山の上にある高山平湖までいきます。観光バスの定番コースとは、すでに観光地としての整備が行われているところで、イメージ的には江南の周庄のようになっていて、トイレも安心という感じでしょうか。すでに整備がされているのは、この東側のルートに多く、思渓・延村・李坑などがそれにあたります。
ほとんど興味がなかったのですが、バスツアーのコースにもよく採用されている李坑を一応見学。う〜ん、入場料は30元取られるし、バスツアーの観光客ばっかり。やっぱり道路が整備されて、行きやすくなると、もう昨日の理坑のような趣はすっかりなくなっていました。悲しいです。黄山からの高速道路が近年中に開通すると、もっと観光客が増えることでしょう。上海から高速でダイレクトにいけますから。でも、気軽に行けるという点では大切かもしれません。どの家でもおみやげ物や骨董品に販売に精を出していました。
登山の格好をして街を歩いている私は、どうもこういう観光地では浮いています。
というわけで、観光地の見学はこれだけにして、一路山奥を目指します。そう、このトラックが本領を発揮するときです。とにかく道がひどい。昨日の雨の影響で、上から下ってくるマイクロバスがスリップしておりてきます。上りの私たちも、止まってしまったら大変。運転手の技術に頼るしかありません。ギアをローに入れて、慎重に前へ進みます。さらに道が狭く、行き違いが難しく大渋滞になるいことも。なるほど、観光バス進入禁止というのが理解できます。
私たちのトラックは、未知なき道を登っていきます。時々、農民がトラクターにのって荷物を運んでいますが、馬力が足りず、後ろで一生懸命押していました。斜面を這うように、石畳の旧道が残っていて、農民たちは荷物を担いで仕事から帰ってきます。水牛が畑を耕すなど、中国ののどかな農村の風景が広がります。
お昼は、江嶺でたまたま入った農家で食事することになりました。この家は、旦那さんが村の中学校の先生。後で調べたら、カメラマンたちご用達の宿で、シーズンになると付近の村も総出で、宿泊に利用されるそうです。特に春の菜の花、秋の紅葉、冬の雪景色と四季の移ろいを写真に収めようとするカメラマンがこの山奥にまでやってきます。
先生と話をしていると、この中学校の生徒数は1000人を超えるらしく、あまりもの校区が広いためにほぼ100%寄宿舎生活。遠い生徒は学校から25キロも離れていて、週末になったら荷物を担いで歩いて帰るそうです。この付近にはまだまだ車も入れないような村がたくさん散在しています。街に通じるバスも1日数本。
この時期収穫される大根・サツマイモ・ニンジン・そして畑いっぱいに広がる無農薬の青梗菜をつかって料理を作ってくださいました。酒かすにつけた魚はこの地区の特産物。自家製のお茶には甘みと苦味が共存し、中国茶本来の味を楽しめます。もちろん、無農薬。今年は大根が収穫しすぎて、豚のえさになっているとか。油も自家製菜種油。
でも、こんな山奥にも見事な木造建築が残っていて、思わずため息が出てしまいます。各村々にはその昔、非常に文化的レベルの高い人たちが住んでいたことを裏付けます。しかしどこも保存がいまひとつで、このままでは一部は倒壊するのも時間の問題かと思います。私は今回の旅行でしっかりとカメラに収めておきました。
今回、江西省の村々を回って感じたのは、中国の身近な文化財がいま非常に大きな危機に瀕しているという点です。
そして改めて、あの60年代から70年代の10年間が中国の庶民に与えた影響の大きさを痛感しました。この10年間に失われたものは徹底的に破壊された歴史的文物だけでなく、人の価値観までもが大きく変化してしまいました。そのことを悔やむ一部の農民たちの声もしっかりと聞きました。
そして、「解放」という意味についても、再考させられます。本来は守るべき村の「おきて」や「しきたり」も封建思想とされ、それらを否定し、徹底的に消してしまいました。その結果、古代人たちが大切に守り続けてきたものも否定され、残ったのは荒れ果てた遺産だけというケースがたくさん見受けられます。江西省だけでなく中国全体で丸はげの山が多いのも、その10年間の名残です。ただ、大切に残されていた木々の多くはまだ現存しているので救いですが。
使命をすでに果たしたといえばそれまでですが、観光開発はしっかりするのに建築物の補修はほとんどしないという、その根本的な矛盾が顕著になってきたように見えます。
さらに、悲しいことに今回あった一部の農民はこれら建築物を修復することよりも、むしろ崩壊してしまうことを願っているという現実。すなわち、崩壊すれば、新しい建築物が建てられるからだそうです。
確かに、観光客からはたくさんのチケット収入があります。しかしそのほとんどは家の持ち主に回ってこず、一体だれがこのお金を使っているのかは、ほとんど明らかにされていないのが現状だそうです。