中国で初めて公的医療保険が導入されたのが、紹興だったように記憶をしているのですが、(間違っていたらごめんなさい)上海もかなり早期に医療保険が導入されている都市のひとつです。最近では上海の都市部に住む都市戸籍取得者だけでなく、上海の農民にも公的医療保険が適用されるようになってきています。そういう意味でも、上海に住む農民の待遇は他地区より恵まれているといえるでしょう。ただ、子供の場合はまた変わっていて、公的保険というよりむしろ親が勤めている会社から医療費が支給されるなど制度はややこしい。
その人の職業によって、細かい違いはあるのですが、現役の上海人の場合は一般的に毎月400元の診察代と薬代が支給されます。そしてこの部分が毎月プールされていきます。このプールされた部分を使うに関しては自己負担率はゼロというわけです。で、プールされた分を超えると超えた分に関して毎月300元までは自己負担率100%となります。さらに300元を超えた分に関しては、かかりつけの病院のランキングによって補助が出て、自己負担率が10%、20%、30%をかわっていきます。
もし、大きな総合病院で病気を診た場合は、自己負担率が上がっていくという仕組みなのです。すなわち、風邪程度のちょっとした病気なら地域の病院にいきなさいということで、総合病院との差別化を図っています。
興味深いのがこの300元の自己負担率100%のところ。
すなわち、1患者に与えられた医療費を使いきった場合は、まずしっかりと自己負担をしてくださいというわけで、患者にまるで医療費の実態を十二分に認知させるようなものでもあります。また、300元の緩衝地帯を設置することで、自己負担100%になるまでに安く病気を治してしまおうという心理もはたらきます。
もし、長年病気にならなければ、この毎月の400元は積み立てられていき、どんどんと増えていきます。その額は個人が持っているICカードに記録されていて、自分が現在使える医療費に関しては、いつでも調べることができます。
この制度には、それなりにメリットがあるようにも思います。すなわち、貧しくて医療費すら払えない人でも、400元の積み立てで最低限の治療は受けられますし、もしお金持ちなら、高額医療費でも自分で足りない部分を補えばよいというわけです。
また、自分が使える医療費に関しては、カードを通じて残額が一目瞭然で、しかも手術費などの料金も病院で完全に公開されているので、自分の経済状況にあった治療をうけることができるわけです。
しかし、慢性疾患があったりすると、これだけの補助だけは不十分で、やはり高すぎる薬代、検査代が問題になってきます。そのため、上海市政府も病院でのコスト削減に躍起になってくるわけです。
公的健康保険の制度が大変なのはどこの国も同じ。その国の事情にあった制度が必要なことがよくわかります。
ちなみに、上海人の公的医療保険は上海でしか使うことができません。逆に上海のレベルの比較的高い治療を求めて地方からやってくる患者は一般にすべて自費診療になります。だから、行政サービスの面でも上海で仕事を見つけて上海戸籍をなんとか取りたいという若者が多いのです。