ここでいう針灸は上海の美容院などで行われている非合法な針灸ではなく、いわゆる医学としての針灸を指します。
結論から言いますと、上海の針灸は全体的に停滞気味であるといわれています。停滞気味であるという根拠は、まず針灸科の患者があまり多くない、学術的論文が少ない、というような現状以外にも、上海の医師(中医学の医師)の間でも、針灸をうまく同時併用できている医師は非常に少ないというものがあります。
政府の力の入れようが不十分であるのも原因でしょうか、一番大きな原因は、上海の患者はあまり針灸を信じていないという点も重要です。これは、上海における伝統医学全体にもいえるのですが、一般的な上海人の多くは「中国の中医学はすごい」、「中国の宝である」とか口先で言うにも関わらず、現実には病気を診るときはほとんど西洋医学で、中医病院にいっている患者も、服用が面倒な生薬よりも、むしろ西洋薬を要求します。
これは、日常生活で中医学を用いている広東人とは違います。中医学の発展にも地域性が強いことを我々は知っておかなくてはなりません。私も華南にたびたび足を運びますが、中医学に対する信頼の高さは、上海とはまったく違います。
歴史的には、清代ぐらいまでは、上海でも医学といえば中医学しかありませんでした。よって、そのころに登場した上海及び江蘇省、浙江省エリアの名医は、熱病など重篤な疾患を中医学で治療し、成果をあげてきました。
しかし、現在ではそういう疾患に対する中医学の役割は薄れてしまい、どちらかというと第2線的なの治療となり、「老名医」という称号も、政府から送られるような行政的なシンブルになってしまいました。
2003年のSARSのときに中医学が導入されましたが、その背景には「中医学も導入すべきである」という中医師たちの強い要求が現場からあったことを忘れてはなりません。現場が一生懸命に主張しないと、忘れられるぐらいの存在なのでした。
結果的に言えることは、やはり中国では北方エリアで針灸を勉強されることをお勧めします。中国の針灸関連の重点プロジェクトは、天津などで力が入れられています。
一般的に、生薬などが豊富な華東・南方エリアでは、針灸による治療チャンスは多くありません。だから、上海に針灸の研修にこられて、いまひとつ目的が達成できなかったという留学生の方が少なくないのも、そういった理由があるのです。医師が針灸で治療する患者の範囲が、今の上海では非常に狭まれています。
何でも言えることですが、やはり専門にあわせて場所を決めて留学・研修されることをお勧めします。現在、インターネットも発達し、私が中国に留学に来た十数年前とは隔世の感覚です。その当時はなにもかも手探り状態で情報がなく、とにかく「やってみよう」という状態でしたから。
いずれにしろ、経済が発展し、生活に不自由の少ない上海に勉強に来られる日本人の方は多いです。特に、最近は短期研修で上海に来られる方は多いです。
日本での資格をお持ちでしたら、私はこの短期研修コースをお勧めします。1年から2年の期間で、効率よく集中的に中医学の勉強ができます。私の母校である上海中医薬大学でもそういった外国人(日本人)用のコースがありますので、大学の留学生部門に問い合わせていただくと沢山の情報が得られると思います。上海で得た知識を元に、日本に戻られて開業なさっている医師・鍼灸師も沢山おられます。病院では上海中医薬大学付属岳陽中西医結合医院が針灸科では有名です。そのほかにも個人的にがんばっておられる専門家もいらっしゃいます。
経済の発展が続く上海では、伝統を重んじるよりも、やはり最先端(西洋医学)のものを吸収するのに必死です。中医学が上海で本当に脚光を浴びるのは、経済が有る程度発展し、市民の生活レベルが十分に高まったときだと思います。
日本がいまちょうどそうですね。針灸師を目指す若者が多いのがその証拠だと思います。
上海であとどれぐらいかかるか…、早くてあと10年から20年ぐらい先ではないでしょうか?