慢性腎不全など腎疾患の多くは、西洋医学的にも決め手となる治療の手立てはなく、非常に難しい分野です。
日本でもいろいろ研究が行われていますが、やはり腎移植や透析以外にこれといった治療法はありません。この永田医師も日本の東北地方で開業しながら、腎不全の患者と漢方を活用しながら日々格闘なさっています。
そんな腎疾患に対して、中国では中医学が活用されているという話を日本の西洋医師の方に話をすると、医師からは信じられないばかりではなく、正直馬鹿にされるようなこともあるぐらいです。腎機能が改善したというエビデンスが出せないような治療はウソだということなのでしょう。学会で中医学や漢方で改善された症例を発表しても、まともに聞いてもらえないというような話しをよく聞きます。というわけで、私も日本の先生方にはめったにこの話をしません。だけど、永田先生のように漢方と取り組んでいらっしゃる先生もおられ、そういう時は非常にうれしい限りです。
私もこちらで中国伝統医学の医師資格を取得して、恩師とともにいろいろな研究や症例を数年間にわたるスパンで患者を観察してきました。その結果、やはり腎不全患者に対して生薬が効果があることが実感できるようになってきました。
中医学で「腎虚」とかいいますが、ここでいう腎不全は腎虚とはまったく違う考え方です。我々が研究を行っている中国の腎臓専門の中医学の内科では、腎生検の結果から、たとえばIgA腎症、膜性腎症など病理学のタイプに分類し、さらに細かく弁証を進めていきます。子供のネフローゼ患者に対しても、生薬と併用することによってステロイドの量を半減することもよくあります。詳しいことは、入門編として日本の東洋学術出版社から出ている雑誌「中医臨床」に、私も執筆に参加した特集があります。ぜひごらんになってください。
そのほか、日常のちょっとした変化にも生薬を活用します。腎疾患患者に多い高血脂血症に対しても、生薬をうまく用いることによりコレステロールや中性脂肪をうまくコントロールしています。とくに、中国の食生活ではその危険性が極めて高い尿酸値の問題に対しても、Colchicineなど副作用が強い新薬の使用を極力避けるようにして治療を行っています。透析患者に多い全身のかゆみにも生薬は対応します。一部の先生方が、生薬服用はカリウムの増加を招くと批判されますが、むしろ西洋医学の免疫抑制剤の副作用をなどを考えれば、まだマシで、実際に生薬が原因でカリウムが増加したという患者はほとんど見られません。
この日、実際に永田先生もループス腎炎や紫斑病性腎炎の患者で、生薬を服用することにより症状が安定した患者を何例も見られ、さらにクレアチニンが劇的に下がった患者も少なくなく、非常に驚かれていました。
日本では、中医学と西洋医学を併用する治療法は邪道だといわれることもありますが、相乗効果を高めるためには、我々はよく使います。小児科のネフローゼの治療などはその代表的な例でしょう。
こうやって腎不全患者に生薬が使われている中国では、中国ならではの事情があるのです。特に中国では、まだまだ公的医療保険が全国に広がっておらず、透析をすることに対して十分な保険適用が行われていません。だから、いかに患者の透析を遅らせるかというのが大切な問題なのです。
一方で、日本でも事情は同じで、日本では透析患者の増加が地方財政を逼迫していて、そのためにいかに治療を進めていくかというのは今後の大きな課題なのです。
いずれにしろ、日本を含めた世界になんと言われようと、中国では腎疾患に中医学を導入している治療が行われているのは事実で、中国の中医師たちが日々格闘しているのです。