2006年10月10日

中医学を廃止してしまおう、という署名活動

 最近、中国のマスコミ各社で気になる報道がなされています。それは、タイトルにあるように、インターネット上で中医学を廃止してしまおう、という署名がなされていて、すでに1万人を超える人が署名したということです。中医ドットコムでも詳しい記事があがっています。

 どういうことかというと、これから5年以内に中国の医療は西洋医学を唯一の医療とし、中医学を民間医療としてしまうというもの。すなわち、今ある中医学の病院システムを廃止してしまえ、というかなり過激な運動です。

 新華社などでも中国衛生部のスポークスマンの話としてニュースとして取り上げていたので、単なるウワサではないでしょう。

 世の中の流れに逆流するような動きですが、いったいどうしてこういうことが起こってきたのか、私なりにも考えてみました。

 まず、一つの大きな理由が、医療制度の法制度化です。中医学というのは、もともと継承されていく学問で、師匠から弟子に教えが伝えられていったものでした。ところが、1990年代後半に入って、医師国家試験制度が中国にできて、こういった伝統的な医師たちの居場所がだんだんとなくなってきた。すなわち、師匠から弟子に伝えられた技術でもって合法的に患者をみることがだんだんと難しくなってきたのです。

 それと、中国の伝統医学教育の問題点が、いまどんどんクローズアップされてきて、中医病院の西洋医化が顕著にもなってきています。教育では「中医学、中医学」ともてはやす一方で、中国の医療の現場では中医の病院でさえも西洋医学をどんどん使うようになった。つまり本当の意味での特色ある中医学の色彩がどんとんと薄くなってきている。

 これに対しては、政府ではライセンスによって規制を加えようとしています。
 すなわち、中医学のライセンスしか持たない医師に対しては、西洋医学的治療をさせないようにする方針が衛生部でもチラホラしだしています。実際、中医学の課程を勉強した医師に、西洋医学の治療をさせること自体が矛盾なのですから、この流れは当然でしょう。でも、現実には西洋医師化してしまった中医師がたくさんいます。これら医師の処遇をこれからどうするかも難しい問題でしょう。

 さらに、大学の伝統医学教育には限界があることも言われてきました。いま、それの見直しが行われていますが、それでもなかなかスムーズには進みません。政府の保護があってこそ、中医学はここまで延命してきましたが、保護がなければとっくになくなっていた、という鋭い指摘もあります。

 これに対しては、中国衛生部は西洋医学、中医学、中西医結合医学の3つのジャンルで中国の医療システムを発展させることを表明しています。第十一5ヵ年計画でも、中医学が関連するプロジェクトがしっかりと組み込まれていました。

 それでも、本場中国での中医学の発展には、まだまだ暗雲が漂っています。第一線で活躍していた、いわゆる旧教育システムで成果を収めたベテラン中医師が80歳前後の高齢のためにどんどん退いていて、私はここ十年が正念場ではないかと思っています。
posted by 藤田 康介 at 00:00| 未分類