これから冬至まで、私たち中医学に携わる医師が1年の中で最も忙しくなります。
なぜかというと、膏方の処方が始まるから。
中国人のなかでも、とくに上海など江南エリアに古くから残る養生の一つです。おもしろことに、北京など北方や、広州など南方にはない中医学の文化です。薬膳などは広く知られていますが、膏方というのは今ひとつピンとくるひとが少ないかもしれません。
上海人とか江南エリアの中国人は、冬至にかけて、慢性疾患を治療するための特別な濃厚なペースト状の膏薬を服用します。処方のやり方もいつもと違っていて、いつもの量の約10倍の生薬を、種類も5倍ぐらい処方します。さらに、西洋参や高麗参など、元気がでる生薬もたくさん使います。これら生薬を銅の鍋でいつもより長時間煎じ、それを3ヶ月ぐらいかけて服用します。糖分も入るので、味は甘め。シロップを想像されたらいいでしょうか。
というワケで、昨日は私の師匠の鞄持ちを担当しました。やってくる患者さんの問診、カルテの記録、処方書きを一切任されました。
まあ、この作業は毎年のことなのですが、それでも大量にやってくる師匠の患者さんをさばくのが大変。
みんな、1ヶ月ぐらい前から今日のための予約してきたひとばかりで、気が焦っているのでしょうか。ちゃんと並んでくれない!
そう、日本人の医師として、いや日本人の代表として、紳士的に患者さんに接そうと思うのですが、相手も必死で、みんな自分の持ってきた予約カードをかざして、私が先だとやってくる。
ちなみに、予約カードには予約番号があって、日本風に予約番号順に並んでもらおうと私は試みるのですが、注意してない間にズルする人が多く、まったく眼が離せません。
さらに、今日予約ではない人がやってきて、「俺は来週が予約なのだけど、今日診てもらいたい」としつこく迫ってきます。
そういう患者さんが特に厄介で、こちらの言うことを全く聞かない。そして「早くしろ、早くしろ」と催促します。
そうなると、日本人の愛想のよい医師の看板ははずして、一見無口な、なにも喋らない中国人医師に変身します。
そうか、中国風サービスはこういうところにメリットがあったのか、とつくづく感じます。笑顔のサービスは、中国では時として、相手につけ込まれることがあるのです。これも、中国で長年生活してきた経験です。
なにはともあれ、午後1時から5時半ぐらいまでがんばって、午後で30人ほどの患者を診察しおえました。
いつものことですが、膏方外来は本当に疲れます。でも、患者さんから去年服用して調子がよかった、という話を聞くと嬉しいもので、それが唯一の励みですね。
70歳を迎えた私の師匠も、私以上に疲れておられることでしょう。
2007年11月10日
頼むから並んで!膏方のシーズン
posted by 藤田 康介 at 00:00| 未分類