民工たちの上海での苦難の生活は、まさにこの春節の帰省のためにあるといっても過言ではないのです。だから、民工たちが無事に田舎に帰られるように、政府も最大限の努力をしているのが分かります。
彼らの帰省が早まった理由をいろいろ考えてみると、まず上海に流入する出稼ぎ労働者の急増で、一斉に帰省するための交通の便の確保が難しくなってきたというのが考えられます。
たとえば、面白い計算がメディアでされています。四川省(重慶市)から上海で出稼ぎにきている民工たちは60万人いると政府のデータで発表されていますが、かりにこの三分の一が帰省したとしても、20万人にのぼります。
しかし、上海から四川省の成都・重慶を結ぶ列車は1日5往復。定員にして6000人ほどです。途中で乗車する人もいるので、上海から乗車券を買えるのは1日4000人分。立ち席乗車券を買っている人もいるので、6000人乗り込めた(詰め込めた?!)としても、20日間の春節の帰省ラッシュに鉄道を利用できる人は12万人だけです。つまり、大部分が鉄道での帰省を諦めなくてはならないということです。(ちなみに、快速列車を使っても上海から成都まで夜行列車で30時間以上かかります)
鉄道がダメなら、今度は長距離バスを検討しなくてはなりません。最後の頼み綱の長距離バスも、上海駅の長距離バスターミナルをみて分かるように、もうすでに長蛇の列です。
ここからも、いかに民工たちの帰省が大変か検討がつきます。そんな中、ダフ屋が出現するものなら、社会不安にもなりかねません。如何に安全に帰省してもらうか?これは非常に大事な問題なのです。
帰省が早くなったもう一つの理由に、私は民工たちの多くがこの一年結構「稼げた」というのも理由にあると思われます。上海は建設ラッシュに湧いていますし、とにかくお金を稼いで故郷に錦をたてたい彼らにとってはここは格好の場所なのです。しかも、中国の都市部では工場などでは労働者も不足しがちです。それが直接人件費アップにもつながっているようですが、逆に言うと、中国人の生活が豊かになってきた証拠で、今度は稼いだお金を地方で還元する非常に大きな経済の原動力になるのです。中国人全体が生産する側から消費する側に徐々に変わってきていることも分かります。
私の無錫の親戚も、最近BUICKを買っていました。農村でもそうしたマイカーを消費できるぐらいにまで所得が向上してきているのです。
問題は、かれら民工たちが春節後にもちゃんと上海に戻ってくるかどうかです。上海人の多くは、家政婦などを彼らに頼っています。安い労働力が豊富にあるかと思いきや、社会の発展とともに急速に不足し始めているのも事実なのです。