中国でも鉄道事故といえば、私の脳裏に真っ先に浮かぶのはやはり上海近郊で発生した高知学芸高校の列車事故です。その当時、まだ私は少年だったのですが、日本人が中国で巻き込まれた事故として、ニュースを鮮明に覚えています。
中国の場合、非常に複雑なダイヤ構成をしているにもかかわらず、鉄道は比較的安全だという印象が私のなかにありました。なんといっても、一本の線路の上に、新幹線CRHの超特急が走るほか、機関車にひかれる長大特急列車、そして緑色の各停列車、さらに貨物列車も走るという、日本人だったら通常考えられないほどバラエティーに富んだ車輌が走っています。
しかも、年々スピードアップのペースが非常にはやい。確かに、日本と違って大陸なので線形もよく、飛ばすことは難しくないでしょうが、信号システムなどをどのように解決しているのか、鉄道フアンの私には非常に関心を持っています。中国では今や寝台特急列車も時速160キロで飛ばす時代なのです。
そんなバラ色に見えた中国の鉄道で、今回死者70人を出す大事故が発生しました。鉄道をよく利用する私にとってはかなりショックです。
さらに、その原因が明らかになり、速度超過という人為的な問題という見解が出されています。事故の発生した区間は、膠済線の中でも曲線区間が多いエリアで、そこに猛スピードで列車が突っ込んでいったと考えられています。
夜明け間近、人々が寝静まった寝台特急列車車が、突如地獄となってしまったのです。
先に脱線したT195次列車は、北京と青島の大都市を結ぶ列車であり、Tではじまる「特快」といわれるランクのかなり上の列車です。決して田舎快速列車ではありません。実際、我々もよく利用するクラスの列車です。
いったいそのとき、運転台でなにがあったのか、まだ報道では公表されていません。しかし、鉄道局のトップが解任されているところからも、かなり初歩的なミスだったのかもしれません。
私が、中国にいて、いつも気になっているのは、中国人の中に、途中の過程はどうであれ、事故さえ起らなければ大丈夫だ的な発想で行動している人が多いように思うのです。バスなど交通機関でもそうです。かなりボロボロになった車輌でも運用されているし、運転手が客とぺちゃくちゃ話したり、携帯電話で話しても、そして何時間も休憩なしでぶっ飛ばしても「没関係」で済ましてしまう。
確かに、端からみれば「たくましい」とか「武勇談的」に写るかもしれないけど、そのために発生するリスクというのは、真剣に考えられているのか心配になります。
例えば、上海のタクシーでもかなりボロボロになったサンタナで、ぶっ飛ばす人がいますが、これもひょっとしたらその瞬間に分解してしまうようなこともあるかもしれない。
中国で鉄道に乗っていても、ときどき機関車の様子が客車から見えるのだけど、業務中の運転手が椅子に座って、足を窓にかけてすごい格好でくつろいでいるのを見かけますが、こんな仕事の仕方で大丈夫なのだろうか?人命を預かっている意識があるのか?と不安になることもあります。
もちろん、日本のように確認点呼をやりながら運転していても、事故は発生するのでしょうが、この大陸的大らかさ、悪く言えばルーズさが今でもこの国には充満しているように思います。
そして、そうした安全を司る人たちの給料が、我々が想像するよりもずっと安く、それが精神的な安定感に影響を及ぼしかねない状態であることも、付け加えておきます。