2008年12月13日

マスタードと中国伝統医学

 この週末はクリニックで、中医(漢方)外来を担当。もうすぐ冬至で、中医学では三九貼の季節となり、うちのクリニックでも外来は忙しくなります。

 ところで、我が家のベジタベの工藤さんの水耕栽培キットに植えたマスタードの芽がそろそろ出始めてきました。ほかのパイプからも芽が出てきていますが、一つだけ非常に元気のいいパイプがあって、すでに外に顔を覗かせています。

 マスタードは、実は中国伝統医学の生薬としても広く使われます。中国語では、「白芥子」ともいいます。その性質は、皆さんのイメージの通り「辛・温」でして、その効能は肺を温めて痰を取り除いたり、体の気の巡りを活性化させたり、痛み止めなどの作用があると言われています。

 「白芥子」を使った有名な中国伝統医学の処方には、三子養親湯というのがあります。マスタード以外にも、シソの種でもある蘇子、大根の種である莱菔子を処方するのですが、痰をとったり、消化不良を改善したりする作用もあります。この3つの生薬を混ぜて、お茶にして飲んでもいいです。ただし、マスタードは摂取しすぎると便が緩くなるので注意が必要です。

かわいらしいマスタードの芽


 三子養親湯という処方の名前がいいですね。3つの子ども(種)が親を養うというのです。『韓氏医通』という明代の医学書に書かれています。

 マスタードは、その辛さを利用して、ペースト状にし、ほかの生薬と混ぜて経穴に貼る付けることもあります。
 冬至からはじまる三九貼の膏薬にも入れられますが、喘息などに効果があるといわれています。
posted by 藤田 康介 at 00:00| 未分類

学歴とは関係ない中医の就職難

 最近、不景気の関係か、中国人の友人から人生相談を受けることが多いのです。

 昨日は、私が大学院時代に所属していた研究所の後輩から電話がありました。

 彼女は、私と同じ科に属していて、大学院で中医学(中国伝統医学)で治療する腎臓病の研究をしていました。今は、北京の病院の研究所でも実験をしているそうですが、来年に博士論文発表を控え、また大学院修了後の就職活動に走り回っていました。

 実は、いま上海市内の中医学の病院では、医師が過剰の状態が続いてて、博士号を取得しても、なかなか就職が見つからないのが現実です。逆に、博士号を持っていると、学歴が高すぎるという理由で、断られることも多いのです。

 そんな中、彼女も、3級甲と呼ばれる大きな総合病院での就職を目指しましたが、どこも殆ど募集がなく、仕方がなく2級クラスの病院で探してたら、なんとかポストはあったものの、自分がやってきた研究が続けられるわけではなく、断るか否か、迷いに迷っていました。そこで、私に電話してきたのです。

 現在、中国の中医大学の大学院では、研究内容が大きく西洋医学化し、なかなか伝統的な中医学に触れるチャンスが少ないというのも現状で、社会が求める中医学のニーズとかけ離れてきているというのも事実です。
 そのため、中医学に対する患者の要望に、我々医療サイドが十分に答えられていないという現実に直面しています。

 そういう私も、研究所で実験をしていましたが、なんとか臨床現場に居続けることに力をいれ、伝統的な中医学を守っていくべきだと努力してきたつもりです。それでも、総合病院という専門職のつよい職場にいると、その勉強成果をなかなか発揮できないのも事実なのです。

 そこで、私は彼女にはこうアドバイスしました。

 「もし、本当に中医学を続けて行きたいのなら、今の付属病院から抜け出て、2級病院に働くのがいい」と。

 幸い、彼女がアプローチしている2級病院には私のお世話になった主任がいるので、後輩をよろしく、と話をすることぐらいは出来ます。

 中医学は、臨床の第一線で使っていれば、それはそれなりに価値があるのですが、ずっと実験などに携わってしまうと、なかなかそういうチャンスもないのです。

 とくに、大きな大学付属病院ではその傾向が顕著で、私の同期でも、めでたく3級病院に就職できても、臨床に行くことはほとんどなく、パソコンの統計処理ばかりやらされ、すっかりめげてしまっている人もいました。

 結局、なにが一番であるか、というのは個人の価値感によって大きく変わるわけで、広く活躍する舞台が、どのように登場してくるかはわかりません。だけど、自分の方向性がぶれないように前進することは大切です。少しぐらい寄り道するのはいいと思いますが、目的地をころころ変化させることはやはり望ましくありません。

 そこで、電話越しにいろいろ話を聞くと、彼女の場合ではやはり実験室でやるよりもむしろ診察室で中医学を使いたい、というのが本望なのだけど、なかなか実験生活にケリをつけることが出来ないという事情もあるのだそうです。

 あるときは、思い切って環境をかえてやってみるのもいいのかもしれません。

 不景気であればあるほど、また仕事が見つからないときほど、目の前の誘惑に惑わされず、自分の最終目的を目指して判断するようにがんばらなければならないと思います。

 もちろん、繰り返しますが、寄り道はありですよ。私もいつも寄り道していますが、寄り道をすればするほど、本道への道が太くなってくるように思います。

posted by 藤田 康介 at 00:00| 未分類