上海の劉教授の、中医学を使った膵臓癌の治療は、西洋医学ではほぼ0に近い5年生存率を7%程度にまで引き延ばしているという興味深い報告もありました。事実、早くから中医学(漢方)を導入し、抗癌剤と併用すると、抗癌剤だけよりも生存率が変わってくることを強調されていました。
日本統合医療学会のシンポジウムは、毎回、日本からも世界的な権威の先生が参加され、非常に勉強になります。そういえば、以前は養老孟司先生も講演されました。今でも印象に残っています。
肺癌の免疫療法や、システム分子医学の癌治療への応用など、興味深い最新のテーマのほか、マルチオミックス解析によるシステム病態学的個人化医療も、今後統合医療を語る上で大事な役割を果たすことでしょう。特に、東京医科歯科大学の田中博教授が話された、システム分子医学の方法論は、今後の癌治療において新しい方向性を示されました。
統合医療では、様々な分野の先生方と交流を深めることができます。今回のお昼は、本物のオリーブ油にこだわっておられ、健康に活用されているオリーブおばさんこと橋詰満子先生と昼食を一緒にさせていただきました。オリーブのお話、楽しかったです!
午後の私にとっての目玉はなんと言っても、「東アジアの補完医療」のセクション。日本漢方サイドからは、以前慶応大学でお会いした慶応大学医学部漢方医学センターセンター長の渡邊先生、前回のシンポジウムでもお話しされたがん研有明病院消化器内科部長の星野先生がご登壇されました。星野先生とは、前回の東大でのシンポジウムで日本漢方の素晴らしさを私に熱く語られたことを強く印象に残っておりました。
一方で、中医サイドでは、中医学をつかった癌治療で有名な小高修司先生が講演されました。もうかなり前から中医学を日本に広められた功労者の一人です。
十全大補湯などを使う渡邊先生や星野先生の漢方とちがって、小高先生は案の定、まさに我々が中国でよく見かけるお馴染みの処方。思考法の違いは歴然です。
どちらがいいというわけではなく、本来はどちらも特色があるといった感じですが、小高先生の経験に基づいた弁証論治と滞りの改善を目指す生活習慣の改善など私自身が共感することはいろいろありました。さらに、中医学では時間に追い立てられるような診察はやってはならないなど、医師として当然の心得をお話しされ、我々若い医師にとっては襟を正して伺いました。小高先生には、銀座で開業されている頃、ご挨拶に伺いました。あった瞬間に、「尿蛋白に効果のある生薬は?」と試験されたことは今でも覚えています。
漢方サイドの先生は、中医学のことを「山のように生薬を出して」と皮肉っておられましたが、中医サイドからすると漢方の癌治療の道筋は全体的に「補剤系」が多く、「毒」に対応出来ていないという指摘。腹診を重視する漢方に対して、脈診や舌診を多用する中医学。このように違いが沢山あるのです。こうした討論は、私は東洋医学学会や日本中医学会でももっと行われるべきだと思います。お互いを理解しないと、先に進めないからです。
ただ、このシンポジウムでは大会長の東京大学名誉教授渥美先生が締めくくられましたが、中医学も漢方医学もお互い源流が同じだけに、それぞれが特色を発揮し合って、日本漢方と中医学が融合した新しい医学が日本で作られるべきだというご意見には、大賛成です。漢方VS中医学の構図ではなく、本来は患者さんに一番利益が多い方法に決着すべきなのです。治療は患者さんが納得できて効果がなければいけませんから。そのためには、専門家だけでなく、現場の医師こそがお互いがお互いの勉強をしなくてはいけません。
懇親会では、日本大学医学部の酒谷薫先生とお話できました。今度、上海でお会いすることにもなり、こちらもどういう展開になるか楽しみです。そして、最後には大会長の渥美先生ご夫妻ともお話できました。渥美先生もご高齢にかかわらず、まだまだ精力的に活動されており、いつもオーラを感じさせていただいています。
上海で17年も途切れることなく中医学を続けることができたその成果を、そして合法的に中国で中医学の診察ができる数少ない日本人の一人として、これらの知識を使って、世の中に少しでも役立てたいと決意して、雪降る東京を宿に戻ったのでした。
すばらしく充実した1日でしたが、明日の大会も興味深いテーマが目白押しです。今晩は興奮して寝られないかも。(笑)
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2.日本での学会参加・講演会発表のため、2月16日午後〜19日まで休診します。