2014年03月21日

上海の土地不足から海葬の勧め

 今年は4月5日が清明節ですね。中国ではお墓参りに季節です。

 我が家は、妻方のお墓が上海市内にあるのですが、工業地区の開発で「立ち退き」となり、いまは川辺の静かな場所で小さなタイルほどのプレートが掲げられていて、そこにお墓参りにいくことになります。とっても小さいのでお墓の草抜きはする必要はありませんが、金ぴかの紙を燃やしたり、お花を供えたりします。そして、ヨモギモチ(中国語で青団)を食べるのもこの時期の習慣です。

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 ところで、上海市民政局では、今年も船を出して海葬する市民のサポートをすることになりました。ただ、船の数のわりには希望者が多くて一年待ちの状態で、今年は船を増発することで半年待ちにするとのことです。そして、清明節が近くなる毎年3月の最後の土曜日を海葬記念日とし、上海南部の墓地でもある濱海古園で遺族達が集まって祭礼をおこなう仕組みになっています。また、海葬をする市民に対しては、船の運賃を補充するだけでなく、1000元の補助も出されます。ここまで補助を出すのも、そもそも上海市では墓地の不足だけでなく、土地そのものが不足しているので、墓地を厳しく制限しています。

 その結果、上海市民政局のデータによると2013年までに2.77万人分の遺灰を海葬し、土地にして1万2千平米の土地を節約できたとしています。市政府は目標として死亡人口の2%は海葬にしたいと計画していて、伝統的なお墓:土地を節約したお墓(室内葬など):海葬の比率を70:28:2程度にするのだそうです。妻方のお墓は「土地を節約したお墓」に相当します。

 たしかに、中国で田舎に旅行に行くと、山のてっぺんなど見晴らしの良いところに大きなお墓を見かけますが、都市住民では無理な話です。

 日本でも近年、お墓参りにだれも行かないお墓が増えたり、管理費が払えないお墓が増えていると聞きます。海に帰るという観点からも、海葬はある意味合理的なのかもしれません。

posted by 藤田 康介 at 20:49| Comment(0) | ここは上海なり

2014年03月19日

「立ち退き」への投資

 汗水流して働くことを美徳と思う人もおれば、家賃収入や投資による利益によって儲ける方がいいと思う人もおります。もちろん、どちらでもよいわけなのですが、中国では全体的に後者を望む方が多いように感じます。その典型的な事例が開発にともなう「立ち退き」による収益をどう利用するかというのではないでしょうか。とても中国的な仕組みかもしれません。

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 先日、私の上海人の親友も興味深いことをしていました。まず、立ち退きになりそうなエリアを上海市内で探してくるらしい。そして、立ち退きが決まる前にそのあたりの小さな物件を買う。彼の場合、たった6平米の物件を1平米10万元というとんでもない値段で買ったらしい。総額は60万元。もちろん、立ち退きが決まってしまったら売買も名義変更もできないので、裏情報を仕入れなければなりませんが、彼はそういうのが得意。

 買ってしまうと、あとは親せきなどの戸籍をそこに入れてしまう。なんと、6平米に5人も戸籍を入れてしまったそうです。しばらくすると、万良く立ち退きが決定。その結果、上海郊外に5部屋のマンションが割り当てられ、さらに不足分は現金でも補償されるのだとか。どんなに安く見積もっても総額600万元ほどの価値になってしまいましたから、10倍に増加したわけです。

 ただし、こうした立ち退きの恩恵を被ることができるのは1度だけです。2回目は禁止されています。いずれにしろこんな話は時々私のまわりでも耳にします。

 さらに立ち退き交渉は、立ち退きを担当する役人との交渉力がポイントです。話を聞いてると、「規定」はあくまでも表向きで、それぞれの村の「実情」にあった交渉術が展開されていて、智恵やコネのある人が多くのマンションを手に入れている、そんな実態が見え隠れしています。大都市上海でもそんな状態ですから、地方にいくともっとドロドロしていることでしょう。基本的にもらえるモノはなんでももらってしまえという発想ですね。

 結果、農民達は現金や物件を手に入れ、人によっては働かずに麻雀三昧の生活をおくっているひとたちもいました。そうなると安すぎる賃金で汗水出して働くことに意義を見いだせなくなってしまいます。これもある意味、社会の歪みを作り出す原因になりかねませんね。

 このほか、この立ち退きに伴う経済の循環はいろいろあります。私が先日見に行った立ち退き案件では、立ち退きの空き地を、立ち退きが完全に終わるまでゴミため場にしていました。これも後ろにお金が動いているらしい。さらにそのゴミためを回収したり整理したりする人たちが、残されたバラックのなかで暮らしていました。

 立ち退きマンションの建設では、お役所がウラで資金を集めているというのもありました。銀行よりもずっと良い利子がつき、しかも政府の公務員など特定の人だけが出資できるという条件のものもあります。こういうのはまず表にでてきません。

 街の再開発で、どれだけのお金がドロドロと動いているのか。中国の社会の不透明さと複雑さを実感することができます。不透明だからこそ、表が潰れてもどうにかなるかもしれないし、場合によっては致命傷になってしまうことも考えられます。


 
posted by 藤田 康介 at 11:07| Comment(0) | ここは上海なり

2014年03月18日

広州の赤ちゃんポストの結末

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 先日、広東省広州で赤ちゃんポストが試験的にできたことをブログでも紹介しましたが、結局赤ちゃんポストで保護される子供の数が予想をはるかに超えてしまったため、1ヶ月半程度で閉鎖されてしまいました。

 広州の『羊城晩報』の報道では、2014年1月28日〜3月16日までに保護された子供の数は男子148人、女子114人で合計262人。内訳は、1歳以下が175人で全体の67%を占めています。疾患別には、脳性麻痺が110例、ダウン症候群が39例、先天性心臓病が32例、その他の疾患が81例となっていました。また、保護された子供の生存率は91%で、子供の命を守るという視点では、その役割を果たすことができたと評価されています。

 ところで、この赤ちゃんポストを設置した広州市社会児童福利院はすでにベッド数がいっぱいで、2004年以降保護されている子供の数は1000人を越えているらしい。2014年現在、子供たちの総数は2395人にのぼり、このうち院内で保護されている子供の数は1121人、院外の家庭で保護されている子供は1274人で施設の収容能力限界に達しているということです。これに、今回の赤ちゃんポストの件でさらに数が増えてしまい、一つのベッドに2人の赤ちゃんを寝かしつけるような状態にもなっていると報道されています。過密になってくると、伝染病も心配です。

 中国では、子供に対しての福利厚生をどうするかという問題がまだまだ解決されていません。とくに、身体に障害を持った場合、また難病や重病にかかった場合の経済的なサポートがまだまだ足りないのが現実です。こういった問題点は、行政も分かっていて、メディアにもたびたび登場するテーマではありますが、なかなか抜本的な解決には繋がっていないようです。

 今回の広州の件では、開始直後は監視カメラだけが設置されていました。その後、係員も配置し、もし赤ちゃんポストに預ける親が来たら、特に1歳以上の子供を預けようとした場合、声をかけるようにしたそうです。さらに、部屋の壁には「赤ちゃんを捨てることは犯罪であり、倫理に反し、子供を傷つけ、一生後悔する」という言葉も付け足されました。

 今後、福利院では従来通りに公安で保護された子供しか受け付けない方針のようです。しかし上海の街でも大人に連れられて物ごいする幼児をみると、どうにかならないものかと考えてしまいます。あまりにも「え!」と思うことが多すぎるのです。

 2395人という数字は広州市だけです。中国全土だといったいどれだけの数字になるのか、想像もつきません。こうした子供たちの増加は、教育問題だけでなく社会の安定にも大きな影響を及ぼすことでしょう。もっと真剣に考えなければいけません。

posted by 藤田 康介 at 08:40| Comment(0) | 中医学・漢方