2017年05月10日

重伝建の街、奈良橿原今井町に住む〜観光地ではなく居住地としての発展を

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 私自身は、大阪生まれの奈良育ち、ご先祖さんも奈良県だし、中学・高校も奈良県なので、なんやかんやいっても奈良県との関わりは深いと思います。上海奈良県人会でも会長を務めさせていただき、現在に至っています。

 ただ、私の少年時代に暮らしていた奈良県というのは、いわゆる新興地の奈良県なので、考えてみれば、奈良県人といえども奈良地元の歴史や文化と関わることはそうなかったように思います。奈良高校に通っていた当時は、奈良公園や「ならまち」はよく行きましたが、橿原今井町の存在すら知りませんでしたから。そして、上海中医薬大学へ行ってしまいました。

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 96年から上海に渡り、伝統とはまったく対極にある街で生活するようになり、タケノコのように成長する高層ビルを日々みながら、今や日本でも体験できないような最先端の暮らしの真っ只中にいますが、そうすると逆に地面に足のついた伝統的な暮らしが恋しくなります。中医学という古い伝統医学の医師をやっているからこそ、尚更古いものを守っていきたいという気持ちが高まって来たのだと思います。

 そこで、上海で生まれた自分の子供にも、新しい上海だけでなく、古き良き日本とホンモノの奈良の「言葉」を知ってもらいたいと思い、上海⇄奈良今井町の2箇所生活になって3年目。子供は今井町並み保存会の皆様にもお世話になり、すっかり今井と上海双方の子供になっています。私も月に1~2回、多い時だと3~4回上海⇄奈良を往復する生活もすっかりと慣れました。14時に大和八木を出発すると、19時には上海の自宅に着いていますから。今や新幹線を使った奈良から東京出張よりはずっと楽な感覚ですね。乗り換えも少ないですし。
 東京出張だったら、月1~2回ぐらいする人は少なくないでしょう。そういう感覚で私は上海と今井町を往復しています。インターネットで仕事ができる現在、どこに拠点があるか、今や大きな問題ではなくなりつつあります。

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 こうしたことが実現できるたのも、400年以上の歴史を持ち、かつて町人達が闊歩していた橿原今井町の素晴らしい地の利と関係があります。日本全国に重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)がありますが、関西国際空港までバス1本でしかも1時間でいけて、上海など世界各地の都市以外にもまるでドア・ツー・ドアの感覚でいけます。
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 近鉄橿原線の八木西口(急行停車)の駅までだったら街の入り口から徒歩3分、大和八木駅(特急停車)までも10分歩けばOKですし、大阪にも京都にも名古屋にも出やすい。これほど便利な保存地区はそうありません。しかも、観光地としてそこそこ有名になっているのにも関わらず、町家に人々が今も住んでいて、日常生活が普通に営まれています。これは日本全国見渡してもとても凄いことだと私は思います。

 また、今井町は310m×600mの決して大きくない、本来は環濠があったエリアですが、その昔には花見に立ち寄った豊臣秀吉や、明治天皇も来られました。舞台となった称念寺は町の中にあり、いま大修復中です。寺内町として発展した今井町の原点でもあります。

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 実は桂小五郎や三条実美も、現存する山尾邸(見学可)に宿泊しています。このエリアに今でも500軒以上の伝統的建築物が残されていて、如何にその当時、今井町が隆盛を誇っていたか分かるかと思います。大町家の規模は、本当に凄いです。

 歩いていける範囲で橿原神宮や大和三山の畝傍山、神武天皇陵もあります。これらは強力なパワースポットですし、甘樫の丘や明日香村の石舞台古墳などの名勝旧跡もサイクリングで十分に行ける距離です。こうした距離の近さも、もともと私自身も奈良県人でありながら、今井町に住んでみて初めて気がつきました。そして、宇陀市や天川村、十津川村、吉野村など奈良県南部の山や温泉地へのアクセスも非常に良いです。昔の今井の町人は、本当に便利なところに町を作ったものだと感心します。

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 いまでもこの小さなエリアに、郵便局や銀行もあります。今井町内にある南都銀行畝傍支店は、南都銀行創立に非常に重要な役割を果たした銀行でもあります。昭和レトロを感じさせるお風呂屋さん「蘇武湯」は我が家のお気に入りです。

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 また、環濠集落のすぐ近くには今井小学校がありますし、幼稚園や最近町家を改修して作られた市の学童保育の施設もあります。

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 市役所もすぐそばですし、一通り歩いて用事が済ませられるというのは非常に便利で、確かにクルマは中に入ってこられませんが、道路が狭いのが幸いして、子供たちが大手を振って道路を歩くことができます。下手にクルマを運転すると確実に脱輪します(笑)。

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 マイカーがなくても、大和八木駅前のレンタカーで用事が片付く私にとっても全然困りません。また、大和八木駅前まで歩いて行くと、県下でも有名な塾や予備校も充実していて、私も中学時代は大和八木駅界隈まで通っていたので懐かしいです。そういった関係か、今井小学校の今年の1年生の入学者数は大幅に増えており、子供の減少が続く昨今の日本で珍しい現象になっています。

 今井町では、歴史的にも町並みの保全に関しては実に様々な議論があったようですが、1993年12月に重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。今でも地元の人に話を聞くと、色々な意見が飛び出しますが、私のように外からきたものからすれば、重伝建地区であるからこそ、変な建物が建てられる心配がないし、町並みがちゃんと将来にわたって保全される安心感があります。それが街全体の価値を高めていることに気がつかないといけません。ちなみに電線が地中化されるスピードも急ピッチです。

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 そこで私も2017年から今井町で小さな町家を1軒リノベーションすることになりました。これから数年かかるかもしれませんが、楽しみの一つです。さっそく準備に取りかかっています。ニュータウンの新しい家は上海でも体験積みですし、やはり古い家のリノベーションに強く憧れます。いまや、ニュータウンやマンションでも空き家が溢れている時代。新しいモノをわざわざ建てるより、古い町家を再生し、数百年続いた伝統的な町並みを残すことが日本を元気にできると思っています。

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 今井町内には、最近、飲食店を中心に店も増え始めています。観光客も来るようになり、複雑な路地を迷われる方も多いですが、今井町は観光客が何人来たか?と数を数えるよりも、住民が住むことで輝きが増してくる街だと思います。というか、今でも十分に便利に暮らせるまちだと思いますし、一度は体験してみるのもよいかもしれません。ここには400年以上にわたる我々日本人の知恵が詰まっています。

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 よく、東京から来た友人などに、重伝建地区には住めないと誤解されていますが、決してそうではなく、むしろ少しでも空き家を減らし、街に活気を取り戻す活動がNPOを中心に行われています。私も今井町に移住するにあたり、いろいろお世話になりました。農村の田舎に移住することと比較すると、都会にも田舎にも近いですし、ハードルは低いと思います。

 実は、近年、私と同じような気持ちになった上海人もいて、奈良の田舎に古民家を買って、上海⇄奈良の2箇所生活をされる富裕層が出始めています。これからこういう日本の田舎が好きになる上海人も増えてくることでしょう。上海人だけでなく、その他の外国人も関西空港を中心とした奈良のアクセスの良さに気づき始めています。

 関西空港を通じて広がる今井町と世界とのネットワーク。今井商人の新しいスタイルが登場するかもしれません。

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posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | 今井町町家再生プロジェクト

2017年05月09日

レジの現金すらなくなった上海のスーパーマーケット「カバ」〜ネットと実店舗の融合を目指すのか〜

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  上海で暮らしていると、毎日なにか新しことが起こり、発見があります。
 仮に、ここでいう「新しいこと」を「ハイテクなこと」に限定しても、残念ながら最近の日本ではこの発見がすごく減ったような気がします。毎月日本に戻る度に残念に思います。

 たとえば、地元奈良のスーパーに買い物に行っても、確かにレジのパートのおばちゃんのテクニックには舌を巻くけど、結局最後に交通系カードすら使えないから、現金を使わないといけないし、ポイントカードを出さないと割引きしてくれないし、高齢者向けの移動販売車は地域のために巡回しているようだけど、品数も限られていて面白くなく、ネットで生鮮食料品の買い物もすらできない。まあ、お年寄りに優しいといえばそれまでなんだけど・・・・。

 そんななか、2016年夏頃から上海でも登場しているスーパーマーケット「カバ(盒马 HeMa)」がなかなかの快進撃です。うちの近所のおばちゃんや親戚もよく買い物しているらしく、浦東の我が家の近所にも実態店舗があったのでさっそく出掛けてみました。

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 中国のスーパーといえば、ウオルマートやカルフールのような巨大店舗を思い出すかもしれませんが、今は時代が変わってきて、むしろ小規模で商品を選び抜いた店に人気が集まっています。私自身も上海の大きな店で買い物するのが結構苦痛で、どこになにがあるのかを見つけるのも大変。そうなると、ネットで検索して買うほうが便利ですよね。もちろん、高齢者にとっては従来式の自由市場や巨大スーパーが人気があるのですが、ネット世代の20~40代は、もう少し質の高い小売り店を求めているようです。

 まさにそういったニーズにあわせたのが、この「カバ」です。

 入り口には「会員向け」となっていますが、要はスマホに「カバ」のAPPをダウンロードすれば会員になれます。日本みたいに、紙の書類に書かせるようなことはしません。

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 実態店舗に入ってまず気づくのが、店がお洒落。日本のスーパー並か、ひょっとしたらそれ以上にきっちりと整理整頓されています。よく見ると値札も電子ペーパーを使っていて、至る所にQRコードも。そして、天井にはなんと買い物バックが移動しています。

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 この買い物バックは、ネットで購入した人の商品が入るバックです。店内には赤い服を着た店員が沢山居て、手には端末を持っています。商品の注文が入ったら、このカゴに商品をいれて、フックにぶら下げると、集配所まで運ばれていく仕組みのようです。実店舗から5キロ圏内なら、ネット注文で30分以内に商品を宅配するというシステムは、忙しい世代にはもってこいでしょう。
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 逆に、中国では高齢者にはそういうサービスは求められず、時間があるので、少しでも安くて、現金で買えるところが望まれています。うちの義父義母も多少時間がかかっても、遠くの安い店に通っています。ニーズが明らかに違うわけです。

 また、「カバ」の特徴は、生鮮食料品も含め、すべて小分けにされているところ。伝統的な巨大スーパーや市場では量り売りが中心なので、その度に並ばないといけないのですが、ここでは買い物カゴにすぐ入れられます。ネットでの購入をメンインに考えられているので、そのための工夫ですね。商品につけられているQRコードは、お肉など生鮮食料品の情報を一目で分かるようになっていますが、このシステム自体はかなり前から上海にあります。市民の食への安全意識が高まっていますから、ある意味当然でしょうね。

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 また、近年中国で人気が高い輸入食品に関してもなかなか充実のラインナップです。アルゼンチン産の海産物とかありますし、水産コーナーでは、上海人が好きそうな食材が並んでいます。

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 つまり、この「カバ」では、実店舗が倉庫代わりになっていて、本命はネットによる買い物であるということに気がつきます。でも、この形式はカルフールなどでもやっていますが、よりネットユーザーが使いやすいように、また清潔感ある店作りに努めているということが分かります。

 さて、支払いです。実店舗で買った場合、もちろん支払い用のレジがありますが、原則現金は使えません。買い物したあとは、自分のスマホのアリペイのバーコードを読み込ませるだけで完了です。おつりも要らないし、ポイントカードの発行もいらない。割引き情報もスマホに表示されますし。

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 ちなみに、ここでは駐車料金もスマホのAPPで解決しました。つまり、もう完全に財布が要らない訳ですね。

 結局、中国の場合、どこの街でも階層社会ですので、万人が満足するサービスなんて考える必要がないのです。この「カバ」のように、支払い方法をアリペイに制限することで、必然的に買い物にくる層が限られてきます。もし利用したかったら、アリペイを使いなさい、という至極中国的なやり方だなと思います。

 日本では、まだまだガラケーが健在だし、スマホが使いこなせていない現実。Suicaなど交通系ICカードも使えるようになってきましたが、個人商店では使えないことが多いし、なにより店にICカードリーダーがないと使いもにならない。日本がまたまたガラパゴス化するか、それとも中国資本などがどかっと入ってきて主導権を取ってしまうのか、いずれにしろ心配が尽きません。

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posted by 藤田 康介 at 07:23| Comment(0) | 上海生活情報

2017年05月08日

上海で進化する有料駐車場、もう現金は要らない

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 上海ではもうすっかりマイカーが当たり前になり、クルマが人々の足になっているのですが、クルマ社会に欠かせないのが駐車場。有料駐車場といえば、駐車券を取って、出口でお金を払うというのが一般的ですが、今の上海はそのレベルを飛び越え、凄いことになっていますね。

 今や、中国では自動車のナンバーを自動的に読み取る技術は十分に活用されていて、駐車券がなくなった駐車場も多いですね。支払いの時にICカードなど電子マネーを使えば、確かに現金なしで支払いは完了できます。ただ、これだったら普通ですよね。

 まず、上海浦東空港の第2ターミナルの駐車場。ここではETCを使った駐車料金の支払いが実現しています。高速道路の料金所を通り抜けるのと同じ要領で料金の支払いが出来てしまうので、一番シンプル。とくに、海外から戻ってくるときは、人民元をたくさん持っていないこともあるので、ETCで決済してもらえたら便利です。現金レーンは行列していても、ETCは空いていることが多いです。

 そして、今日上海浦東金橋の某ショッピングセンターで体験したのは、スマホのAPPを使った支払い。

 駐車場に入ると、クルマのナンバーは自動的に読み取られます。

 駐車場に大きなQRコードが掲示してあり、そこからショッピングモールのAPPに入り、APPに自分のクルマのナンバーを入力し、すると駐車時間が計算されて、アリペイから支払いを予め済ませます。そして30分以内に駐車場からでると、自動的にゲートが開くいう仕組みです。
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 これだったら出口で小銭を出したり、おつりをもらったりすることがないので、スマートに駐車場から出られますよね。

 この方式にはちょっと感動しました。

 駐車場には、空いているかどうかを示すライトが天井に設置されていて、遠くからでも空きスペースがよく分かります。この仕組みも、日本に欲しいですね。
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 基本的に、どこでも人やクルマでいっぱいになる上海だから、なんでも簡略化しないといけない。日本みたいに人不足が原因で機械化が進むのではなく、大勢の人がスムーズに目的を果たせるようにすることは、いまの中国で最重要課題。しかもシステムを導入することで儲かるから、多くの人が知恵を絞るのだと思います。

 最近、日本に戻って感じるのは、確かにSUICAを使えるところは増えていますが、いまだにポイントカードとかも変わらないし、相変わらず個人商店では現金をジャラジャラポケットに入れての外出。20年前の日本は中国と比較してもそこそこ進化していたのに、今その当時とあまり大きな変化がないのが、なんとも残念に思えます。スマホが登場してきてから特に、日本の遅れが目立つように感じますが、どうでしょうか?

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posted by 藤田 康介 at 22:09| Comment(0) | ここは上海なり