2018年06月12日

奈良今井町、仏式の起工式(地鎮祭)

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 奈良橿原今井町の空き家町家の修復工事を始めるというブログを書いて早1年以上がすぎました。
 それまで途切れることなく準備を進めていたのですが、手続きがいろいろと大変で、1年かかってやっと目に見えた動きになりました。

 国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に指定されている今井町だけに、町家の修復はなかなか大変です。でも、その大変でかつ地味な作業があるからこそ、今のような中世の風景が残っているのだと思います。

 あまり知られていませんが、今や妻籠・津和野・祇園・白川・川越などなど日本全国で100箇所以上ある重伝建地区の制度が始まるきっかけを作ったのも、実はこの今井町。戦国時代から今井町人たちの自治があったように、その後も町を保存する先輩住民達による独自の取り組みが行われていたことは特筆に値します。それが町家建築などが群集して残る現在の姿になったのです。

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 ちなみに重伝建地区は、歴史がある奈良県ですら3箇所しかなく、伝統的建造物は504箇所もあり、日本全国のなかでも突出しています。まあ、奈良県には重伝建地区に匹敵するような地域はまだまだあるのでしょうが、本格的な保存となると地元の人の協力も必要で、難題も沢山あるわけです。
 
 今回の改修工事も伝統的建造物に指定されている町家ですので、設計士さんや大工さんはもちろんのこと、文化庁や橿原市をはじめ、関係各部門との許認可が必要ですし、さらに自治会長さん、区長さん、お隣さん、ご近所さん、そして保存会の会長さんなどなど多くの人たちとの協力と繋がりが必要です。

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 起工式はもろもろの事情から仏式になりました。
 ありがたいことに今井町内のお寺から住職さんに来て頂きました。
 今井町内には、神社もお寺も事欠きません。

 お祓いする神式の地鎮祭とはまったく違う形式で、お経をあげていただきました。屋内・屋外だけでなく、長らく使われてきた厠・おくどさんにも感謝の念を込めて、塩とお酒でお清めしました。

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 こういう今井町の古い建物には、いろいろなエピソードはつきもの。住職さんは前に住んでおられたおばあちゃんのことも含め、工事の安全を祈願されていました。今井町ならではの習慣や風習の話はご近所さんから伺うことで、この街に対する愛着が出てくるものです。

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 全部で1時間半ほどかかりましたが、無事終了。

 今、今井町では徐々にですが、空いている町家の修繕・整備が始まっています。今井町に観光に来られた人は、「なんだ、意外と新しいぞ。」と感じるかもしれません。きっと、修復前の古い古いボロ町家が並んでいると想像されているかもしれません。

 しかし、木造の町家は痛みが激しければ、最後は崩れてしまい自然に帰ってしまいます。とてもエコな建物だと思います。少しでも手を加えていかないと後世まで町並みを残すことが出来ないのです。そのために、今井町内にある整備事務所までいくと、各町家のオリジナルの姿のデータが残っていますが、そうした資料をもとに、近現代に勝手に手が加えられた町屋の外感に関しては、元通りに戻されていきます。
 うちの町家も、もともと壁だった場所に窓が勝手に作られていたり色々な後世の改造箇所が出て来たので、設計士さんと相談しながら、できるだけオリジナルに戻していきます。

 最近、私たちのように、この今井の町並が気に入って、新しくやってくる若いファミリーも増え始めています。

 今井町の生活は、新興住宅地やマンションとは全く違う様式ですが、なんといっても平地で、買い物などはほぼ徒歩で暮らせるようになっていて、隣近所との距離感が近く、いつも誰かと触れあう人間関係は、大都市に住んでいる人にとっては新鮮です。町家街のなかに、銀行も郵便局もあります。

 何百年と営まれてきた先人からの暮らしを自分たちも引き継いで行けたらと思います。我々もここに移住してきて4年目になりますが、古い町とはいえ、住めば都でなかなか居心地が良いものです。

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 これから、天井も抜けてしまったこのボロ町家に、命を吹き込んでいきます!
 海外に暮らしているから見えてくる日本の魅力。これからも大切にしていきたいです。

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posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | 今井町町家再生プロジェクト

2017年05月10日

重伝建の街、奈良橿原今井町に住む〜観光地ではなく居住地としての発展を

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 私自身は、大阪生まれの奈良育ち、ご先祖さんも奈良県だし、中学・高校も奈良県なので、なんやかんやいっても奈良県との関わりは深いと思います。上海奈良県人会でも会長を務めさせていただき、現在に至っています。

 ただ、私の少年時代に暮らしていた奈良県というのは、いわゆる新興地の奈良県なので、考えてみれば、奈良県人といえども奈良地元の歴史や文化と関わることはそうなかったように思います。奈良高校に通っていた当時は、奈良公園や「ならまち」はよく行きましたが、橿原今井町の存在すら知りませんでしたから。そして、上海中医薬大学へ行ってしまいました。

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 96年から上海に渡り、伝統とはまったく対極にある街で生活するようになり、タケノコのように成長する高層ビルを日々みながら、今や日本でも体験できないような最先端の暮らしの真っ只中にいますが、そうすると逆に地面に足のついた伝統的な暮らしが恋しくなります。中医学という古い伝統医学の医師をやっているからこそ、尚更古いものを守っていきたいという気持ちが高まって来たのだと思います。

 そこで、上海で生まれた自分の子供にも、新しい上海だけでなく、古き良き日本とホンモノの奈良の「言葉」を知ってもらいたいと思い、上海⇄奈良今井町の2箇所生活になって3年目。子供は今井町並み保存会の皆様にもお世話になり、すっかり今井と上海双方の子供になっています。私も月に1~2回、多い時だと3~4回上海⇄奈良を往復する生活もすっかりと慣れました。14時に大和八木を出発すると、19時には上海の自宅に着いていますから。今や新幹線を使った奈良から東京出張よりはずっと楽な感覚ですね。乗り換えも少ないですし。
 東京出張だったら、月1~2回ぐらいする人は少なくないでしょう。そういう感覚で私は上海と今井町を往復しています。インターネットで仕事ができる現在、どこに拠点があるか、今や大きな問題ではなくなりつつあります。

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 こうしたことが実現できるたのも、400年以上の歴史を持ち、かつて町人達が闊歩していた橿原今井町の素晴らしい地の利と関係があります。日本全国に重伝建(重要伝統的建造物群保存地区)がありますが、関西国際空港までバス1本でしかも1時間でいけて、上海など世界各地の都市以外にもまるでドア・ツー・ドアの感覚でいけます。
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 近鉄橿原線の八木西口(急行停車)の駅までだったら街の入り口から徒歩3分、大和八木駅(特急停車)までも10分歩けばOKですし、大阪にも京都にも名古屋にも出やすい。これほど便利な保存地区はそうありません。しかも、観光地としてそこそこ有名になっているのにも関わらず、町家に人々が今も住んでいて、日常生活が普通に営まれています。これは日本全国見渡してもとても凄いことだと私は思います。

 また、今井町は310m×600mの決して大きくない、本来は環濠があったエリアですが、その昔には花見に立ち寄った豊臣秀吉や、明治天皇も来られました。舞台となった称念寺は町の中にあり、いま大修復中です。寺内町として発展した今井町の原点でもあります。

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 実は桂小五郎や三条実美も、現存する山尾邸(見学可)に宿泊しています。このエリアに今でも500軒以上の伝統的建築物が残されていて、如何にその当時、今井町が隆盛を誇っていたか分かるかと思います。大町家の規模は、本当に凄いです。

 歩いていける範囲で橿原神宮や大和三山の畝傍山、神武天皇陵もあります。これらは強力なパワースポットですし、甘樫の丘や明日香村の石舞台古墳などの名勝旧跡もサイクリングで十分に行ける距離です。こうした距離の近さも、もともと私自身も奈良県人でありながら、今井町に住んでみて初めて気がつきました。そして、宇陀市や天川村、十津川村、吉野村など奈良県南部の山や温泉地へのアクセスも非常に良いです。昔の今井の町人は、本当に便利なところに町を作ったものだと感心します。

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 いまでもこの小さなエリアに、郵便局や銀行もあります。今井町内にある南都銀行畝傍支店は、南都銀行創立に非常に重要な役割を果たした銀行でもあります。昭和レトロを感じさせるお風呂屋さん「蘇武湯」は我が家のお気に入りです。

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 また、環濠集落のすぐ近くには今井小学校がありますし、幼稚園や最近町家を改修して作られた市の学童保育の施設もあります。

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 市役所もすぐそばですし、一通り歩いて用事が済ませられるというのは非常に便利で、確かにクルマは中に入ってこられませんが、道路が狭いのが幸いして、子供たちが大手を振って道路を歩くことができます。下手にクルマを運転すると確実に脱輪します(笑)。

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 マイカーがなくても、大和八木駅前のレンタカーで用事が片付く私にとっても全然困りません。また、大和八木駅前まで歩いて行くと、県下でも有名な塾や予備校も充実していて、私も中学時代は大和八木駅界隈まで通っていたので懐かしいです。そういった関係か、今井小学校の今年の1年生の入学者数は大幅に増えており、子供の減少が続く昨今の日本で珍しい現象になっています。

 今井町では、歴史的にも町並みの保全に関しては実に様々な議論があったようですが、1993年12月に重要伝統的建造物群保存地区に指定されました。今でも地元の人に話を聞くと、色々な意見が飛び出しますが、私のように外からきたものからすれば、重伝建地区であるからこそ、変な建物が建てられる心配がないし、町並みがちゃんと将来にわたって保全される安心感があります。それが街全体の価値を高めていることに気がつかないといけません。ちなみに電線が地中化されるスピードも急ピッチです。

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 そこで私も2017年から今井町で小さな町家を1軒リノベーションすることになりました。これから数年かかるかもしれませんが、楽しみの一つです。さっそく準備に取りかかっています。ニュータウンの新しい家は上海でも体験積みですし、やはり古い家のリノベーションに強く憧れます。いまや、ニュータウンやマンションでも空き家が溢れている時代。新しいモノをわざわざ建てるより、古い町家を再生し、数百年続いた伝統的な町並みを残すことが日本を元気にできると思っています。

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 今井町内には、最近、飲食店を中心に店も増え始めています。観光客も来るようになり、複雑な路地を迷われる方も多いですが、今井町は観光客が何人来たか?と数を数えるよりも、住民が住むことで輝きが増してくる街だと思います。というか、今でも十分に便利に暮らせるまちだと思いますし、一度は体験してみるのもよいかもしれません。ここには400年以上にわたる我々日本人の知恵が詰まっています。

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 よく、東京から来た友人などに、重伝建地区には住めないと誤解されていますが、決してそうではなく、むしろ少しでも空き家を減らし、街に活気を取り戻す活動がNPOを中心に行われています。私も今井町に移住するにあたり、いろいろお世話になりました。農村の田舎に移住することと比較すると、都会にも田舎にも近いですし、ハードルは低いと思います。

 実は、近年、私と同じような気持ちになった上海人もいて、奈良の田舎に古民家を買って、上海⇄奈良の2箇所生活をされる富裕層が出始めています。これからこういう日本の田舎が好きになる上海人も増えてくることでしょう。上海人だけでなく、その他の外国人も関西空港を中心とした奈良のアクセスの良さに気づき始めています。

 関西空港を通じて広がる今井町と世界とのネットワーク。今井商人の新しいスタイルが登場するかもしれません。

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posted by 藤田 康介 at 00:00| Comment(0) | 今井町町家再生プロジェクト